続けて賃貸借のお話です。

その前に、例えば土地の売買で代金を1000万円として
売主と買主が合意して契約が成立したとします。
ところが後になって売主が
「やっぱり1200万円に上げてください。」と言えるでしょうか。
法律上の「請求」としての、代金の値上げの「請求」はできません。
法律上の権利に基づいて、その行使としてできるのが「請求」で
合意して契約した売買代金について
売主に値上げを請求する権利はありません。
もちろん値交渉は構いません。買主がそれに合意すれば値上げも可能です。

その一方で、法律上の権利に基づいて「請求」をする場合は
相手の合意は不要です。

さて、賃貸借においても、契約時に「家賃1ヵ月5万円」と
合意が成立しています。
それを後から家主が値上げを「請求」することができるでしょうか。
売買と同じように一度合意したのですから値上げできなのでしょうか。
賃貸借は売買と違って継続的な契約です。
長い期間が経過すると、物価の上昇、経済情勢など様々な変化が生じます。

そこで、借地借家法32条1項は次のように規定しています。
「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、
土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、
又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、
契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の
増減を請求することができる。」

家主が経済事情や周りの状況から家賃が安すぎると思えば、
「家賃を値上げします!」と借家人に請求することがきる、
つまり、借家人の合意なしに家賃を値上げできるということです。

しかし、借家人にすると「デフレの時代で建物の価格は上がってない」
「周りと比べて安くない」など反論があるかもしれません。
それでも、値上げされた家賃を払わなければならないのでしょうか。

これについても借地借家法の32条2項に規定があります。
「建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、
その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、
相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。」

つまり、どうしても納得できないのなら、
裁判で値上げが認められるまで、
借家人が妥当と考える金額で家賃を払えばいい訳です。
今までの家賃が妥当と考えるなら、今までと同じ家賃を払えばいい訳です。
値上げした金額に足りないからと、家賃不払いにはなりません。

(裁判所を利用する場合、まずは調停手続で話し合いをし
それでもまとまらないとき裁判手続へと手続の順番が決まっています。)

ただし、裁判で値上げが認められた場合は、
それまで妥当と考え払った金額と値上げされた金額の差額を
1割増しして払わなければなりません。
「5万円に値上げします。」と言われた後も、
4万円が妥当だと考えて、6カ月間、月4万円払ってきて
しかし、裁判で5万円の値上げが認められた場合は、
(5万円-4万円)☓6カ月☓1.1=6万6000円を
不足分として払わなければなりません。(一度に)
そういうリスクも考えて家主と交渉しなければなりません。

とは言え、どう考えても納得のいかない値上げに対しては、
自分が妥当と思う家賃を支払いながら、
交渉し、さらに裁判になっていくこともあるかもしれません。

そんなとき、家主が「値上げした家賃でないとだめだ」と
妥当と思う家賃では受け取らないかもしれません。
「受け取らないならしょうがない」とそのまま3カ月、4カ月と経つと、
家賃不払いを理由に契約を解除される恐れがあります。
家主が受け取らないのに家賃不払いになるというのは
不合理に感じるかもしれませんが、
そういうときの手当として「供託(きょうたく)」というものがあります。

受け取りを拒絶する家主の代わりに、
法務局に自分が妥当と思う家賃を受け取ってもらうのが供託です。
法務局に供託しておけば家賃不払いにはなりません。

もっとも、家主が拒絶する間は毎月供託をしなければなりません。
少し面倒ですが仕方ありません。
また、家主が受け取りを拒絶して初めて供託ができます。
家主と顔を合わせるのが嫌だからと、
家主のところに家賃を持っていかないまま
拒絶されてもいないのに供託をすることはできません。

供託は私たち司法書士の取り扱う手続の一つです。
困ったときはご相談ください。

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