前回の続きです。

 

前回の設例で、信託財産が

収益性のある甲不動産と収益性のない乙不動産であるとします。

 

判決でとられた考え方を設例にあてはめると、

収益性のない乙不動産からは経済的利益を得ることができず、

乙不動産を信託の目的財産に含めたのは、

外形上、Bに遺留分割合に相当する4分の1の受益権を与え

乙不動産に対する遺留分減殺請求を回避する目的であった、

なので、この部分は遺留分制度を潜脱する意図であり

公序良俗に反して無効、収益性のない乙不動産について

所有権移転登記と信託の登記の抹消を命じるということになります。

 

A、Bが生存中、乙不動産から経済的利益が得られず、

受益権の評価をAとBのみで考えるのであれば、

乙不動産に対する受益権の評価はゼロとも考えられます。

 

しかし、遺留分の算定において

受益権の評価は第2順位のCも含め判断するべきです。(前述)

そして、第2順位のCが信託終了時に残余財産を取得するのであれば、

この残余財産の取得による利益は含めなくていいのでしょうか。

 

この点ははっきりしていませんが、

受益者が信託財産の利益を100%享受できないことが明らかで、

その死亡後に残余財産が帰属権利者に帰属する場合、

その利益の一定部分について遺留分侵害が生じる可能性があると

考えることもできます。(「信託の理論的進化を求めて」(トラスト

未来フォーラム)の能見善久「財産承継的信託と遺留分減殺請求」

146頁(注12))

 

委託者兼受益者の死亡で終了する(受益者連続型ではない)信託において、

複数存在する委託者の相続人の内の一人のみが

残余財産の帰属権利者となっている場合、委託者の死亡が契機となるものの

残余財産の所有権は委託者ではなく受託者から帰属権利者に移転するので

受益者連続型の受益権の取得と法律構成は異なると考えられます。

 

しかし、この場合、他の相続人は、帰属権利者に対して

遺留分減殺を請求できないのでしょうか。

このことを論じたものを見たことがないのですが、

できなければ、これこそ信託が遺留分制度を潜脱することになります。

 

ですので、遺留分減殺はできると思うのですが、

受益者連続信託になると、途端に残余財産の帰属による利益が

遺留分減殺から切り離されるのであれば

法律構成が異なるとしても、バランスを欠くと思います。

 

前回からの設例に戻って

もし、Cの受益権に残余財産の帰属による利益が含まれるとすると

収益性のない乙不動産の受益権についても、

経済的利益を評価できる可能性があります。

 

(Cに残余財産が帰属する時期が不確定なため

Cの乙不動産についての受益権の評価は、委託者死亡時の

乙不動産の現物としての評価より低くなる可能性はあります。)

 

乙不動産の受益権に経済的利益を評価できるのであれば

収益性のない不動産を目的財産に含めることをもって

信託が必ずしも遺留分制度の潜脱を目的としたとは言えず、

公序良俗違反に当たらないと考える余地があると思います。

※ 判決では残余財産の帰属権利者が誰かは不明です。

 

収益性のない不動産を目的財産とした信託が

公序良俗違反となるのであれば、

収益性のない自宅の管理を目的として

売却を予定していないような信託までも無効となりかねず、

今回の判決が実務に及ぼす影響は大きいものになります。

 

 

前回、今回と遺留分の判断における受益権の評価について

それぞれ、私なりの検討を書き留めました。

 

まだ整理できていない部分があり、

まとまりがなかったかもしれませんが

今後、出されると思われる判決に対する評釈も確認して

引き続き検討したいと思います。

角田・本多司法書士合同事務所