受託者の責任と限定責任信託
受託者の責任につていは
ブログ「受託者とその監督」で触れましたが、
そこでは主に、受託者の任務(受益者に対する責任)
についてのお話をしました。
今日は、信託に関する債権者に対する
受託者の責任についてのお話です。
1 倒産隔離機能との関係
ブログ「倒産隔離機能について」で
信託に関する債務(信託財産責任負担債務:信託法21条)以外の
信託に関係ない債務について
信託財産は差し押さえなどの強制執行を受けることはなく
信託財産は言わば守られている状態とお話ししました。
これは、委託者や受託者の信託に関係ない債権者と
信託財産との関係についてのお話で、
例えば、委託者や受託者が信託に関係なく
自分のためにした借金について
その債権者は委託者や受託者が返済しないからといって、
信託財産に差し押さえはできないということです。
これに対して、今日のお話は、
信託に関する債務(信託財産責任負担債務)の債権者が
受託者固有の財産を差押えることができるかということで、
倒産隔離機能で守られている信託財産のことではなく、
受託者固有の財産についてのことになります。
2 信託に関する債務と受託者固有の財産の関係
例えば、受託者が信託財産を管理するにあたり、
その権限に基づいて借り入れをした場合、
貸し付けた債権者は、もし借入金の返済がされなかったとき、
信託在差を差押えるなど強制執行ができます。
ところで、信託財産のための借り入れとは言え、
借り入れの名義は受託者です。
それでは、その債権者は受託者固有の財産に対して
強制執行ができるでしょうか?
答えはイエスです。
受託者は、信託に関する債務について、
自分の固有の財産をもって返済する、
自分の固有の財産が強制執行を受ける、
このような責任を負っています。
(もちろん、信託財産から返済できれば、
受託者固有の財産から返済する必要はありません。)
※信託法21条2項に規定する債務は除きます
3 限定責任信託
これでは、受託者の責任が大きすぎると感じ
受託者となるのに二の足を踏むこともあるかもしれません。
そこで、信託財産のみを、信託に関する債務の
返済にあてればよいとする「限定責任信託」を設定すれば
受託者の責任は軽くなります。
限定責任信託とするには、いくつかの要件があります。
(1)信託契約などに所定の事項を定める(信託法216条1項)
信託契約などに限定責任信託である旨と
下記の事項を定めなければなりません。
① 限定責任信託の目的
② 限定責任信託の名称(例「〇〇〇限定責任信託」)
③ 委託者および受託者の氏名・名称と住所
④ 主たる信託事務の処理を行うべき場所
⑤ 信託財産に属する管理または処分の方法
⑥ 信託事務年度
(2)取引相手方への明示義務(信託法219条)
受託者は、限定責任信託の受託者として取引をする場合
取引の相手方にその旨を示さなければなりません。
(3)登記(信託法220条232条)
限定責任信託を設定した場合には、
2週間以内に定められた事項を登記しなければなりません。
これは、信託財産に不動産がある場合、
不動産の登記簿に信託財産である旨を登記することとは別で、
不動産の有無にかかわらず、
限定責任信託を設定したこと自体を登記するものです。
(4) 帳簿の作成義務(信託法222条) 給付の制限(信託法225条)など
限定責任信託の場合は、通常の信託と比べて
より詳細な会計帳簿の作成などが義務付けられています。
また、委託者から受益者への配当などの
給付可能額について制限があります。
このように、限定責任信託は通常の信託に比べて、
手続きや事務処理の負担は増えます。
受益者への配当にも制限がありますが、
受託者の固有の財産に対する責任は
軽減されるということになります。