「受託者」とその監督~信託の活用
今日は、信託における「受託者」についてです。
信託では、委託者が自分の財産を受託者に信託します。
財産の所有権は受託者に移り(受託者名義になり)
その後、受託者が管理・処分を行います。
信託財産は受託者の所有となりますが、
自分の好き勝手にできるものではなく、
信託の目的にしたがい、受益者の利益になるよう
管理・処分を行わなければなりません。
1 受託者の義務
そのため、受託者には様々な法律上の義務があります。
※ 信託契約でこれとは異なる定めをすることができるものがあり
その場合はその定めに従います。
①善管注意義務(信託法29条)
受託者は、善良な管理者の注意をもって、
信託事務を行わなければなりません。
「善良な管理者の注意」とは、受託者の職業、地位において、
社会通念上、要求される注意義務とされます。
②忠実義務(信託法30条)
受託者は、受益者のために忠実に
信託事務を行わなければなりません。
③公平義務(信託法33条)
受託者は、受益者が二人以上いるときは、
公平に信託事務を行わなければなりません。
④分別管理義務(信託法34条)
受託者は、信託された財産を自分の財産などの他の財産と
分別して管理しなければなりません。
⑤帳簿の作成等、報告及び保存の義務(信託法37条)
受託者は、信託財産について帳簿を作成し、
受益者に報告しなければなりません。
また、それらの書類を一定期間、保存し、
受益者に請求されたときは、閲覧させなければなりません。
⑥損失てん補責任(信託法40条)
受託者は、任務を怠ったことで
信託財産に損害を与えた場合は、
損害を補てん、または原状に回復する責任を負います。
⑦その他、利益相反行為の制限など
受託者の義務・責任は、少し重いように感じますが、
通常の委任でも善管注意義務などは負いますし、
身内が成年後見になったときも、
本人と後見人の預金なども、はっきり分けて管理するよう
裁判所などから求められます。
やはり、他人の財産を預かることになれば、
それ相応のわきまえをもって管理する必要があります。
2 受託者を誰にするか
法律で義務や責任が決められていても、
家族信託で、受託者本人がそれを守らなければ意味がありません。
当然ですが、信頼できる人を受託者にしなければなりません。
また例えば、自分の子を受託者にする場合、
他の子との関係も考える方がよいでしょう。
財産は受託者の所有となりますので、
他の子が変な疑いの目を向けることがあるかもしれません。
逆に、受託者になった子が、
自分だけに負担がかかってると不満をもつかもりれません。
できるだけ家族、関係者全員の理解を得た上で、
受託者を決め信託を行うことが好ましいと思います。
信託銀行や信託会社を受託者とすることもできます。
(司法書士や弁護士は、信託について許可・免許がなければ受託者になれません。)
しかし、信託報酬が負担できない、したくない、
第三者に財産を預けることに抵抗があるということもあるでしょう。
また、財産の内容によっては、信託銀行などが引き受けないこともあります。
一方で、家族間で対立があり、それ以上対立を深くしないために
独断で信託を行うこともあるかもしれません。
そんなときは、第三者である信託銀行などを受託者とした方が、
かえってしがらみがなくなり
対立を鎮めることができる場合もあるかもしれません。
誰に託すか、
受託者を誰にするかは非常に重要です。
3 信託監督人の活用
受益者は、帳簿閲覧の請求などを通して、
受託者を監督することができます。
しかし、受益者が高齢になる、判断能力が衰えるなどして
十分に監督できなくなる恐れもあります。
そう考えると、信頼できる人を受託者にしても
完全に不安はなくならないのかもしれません。
そいうとき、受益者に代わり
受託者を監督する役目をになう「信託監督人」を置くことが考えられます。
信託監督人は、受託者を監督することについて、
受益者と同じ権限を持っています。
他の子を信託監督人にしておく、
あるいは、司法書士などの専門家を
信託監督人にしておくことも考えられます。
(信託監督人には許可・免許は不要です。)
受託者の役割、責任を理解した上で、
信頼できる受託者を選び、
必要に応じて監督人を置くなどして、
信託の目的を円滑に、そして円満に達成できるよう
最初の段階で、十分に考える必要があります。