信託財産である不動産の売買について2
※ 前回「信託財産である不動産の売買について1」のつづきです。
3 委託者の地位の移転
委託者は誰か?といっても
委託者は信託目録に記載されています。
しかし、記載されているのはほとんどの場合
当初の委託者です。
当初の委託者は当初の受益者であることがほとんどです。
信託が設定されて以降に、受益権が転々と売買されて、
現在の受益者が当初受益者でないことはよくあります。
そして、実際は、受益権の譲渡と合わせて、
委託者の地位の移転もされていることがほとんどです。
つまり、受益権と委託者の地位は一体のものとして譲渡・移転され、
前の受益者兼委託者は、信託契約から離脱しているのです。
しかし、受益権の売買が行われるたびに
信託目録の受益者は変更されていますが、
委託者は変更されず当初の委託者のままとなっています。
理由としては、
平成18年に信託法が改正されましたが、改正前の信託法には
委託者の地位の移転について規定がありませんでした。
実際は、受益権の売買と合わせて
委託者の地位の移転がされていたにもかかわらず、
明文の規定がないということで、
信託目録の委託者は変更しない取り扱いをしていた
ということのようです。
そして、信託法の改正後も、
受益権と委託者の地位の譲渡・移転という取引が行われた際、
受益者の変更登記は行っても
委託者の変更登記は行わないことがあっていたようです。
しかし、最近、福岡法務局から
委託者の地位の移転が行われている場合は
委託者の変更登記を要すると見解が出されたと聞きました。
(先例等は確認できていません。)
インターネットで検索してみると
委託者の変更を要するかどうかが議論になっている、
委託者の変更登記を行った、といった
司法書士のブログの記事が見られます。
不動産登記法にも次の規定があります。
(信託の変更の登記の申請) 第103条 前二条に規定するもののほか、第97条第1項各号に 掲げる登記事項について変更があったときは、受託者は、遅滞な く、信託の変更の登記を申請しなければならない。 |
97条1項各号とは、信託目録に登記すべき事項で
委託者の氏名または名称および氏名を含みます。
委託者の地位が移転しているにもかかわらず、
変更登記がなされていない信託財産についての登記手続きは
これまでと違って、前提として委託者の変更を要する
と、なる可能性が十分にあるので注意が必要です。
4 信託条項は法の規定を排除していないか
受益者兼委託者が信託の終了を決定するとして、
しかし、ひとつ疑問が残っています。
当事者の合意による信託の終了については
前述のとおり信託法164条に規定があり
信託条項で別段の定めも可能とされています。
もし、信託条項で
「本信託契約は、期間が満了するまで原則として解除されない。
ただし、本信託契約に定めるいずれかの事由が発生した場合は
期間満了前に本信託契約は終了する」と定めてあり、
その一方で、事前の通知なしで受託者と受益者で合意できる旨も
委託者と受益者の合意により終了できる旨も定めてない場合、
それでも、信託法の規定に戻って委託者と受益者の合意で終了できるのか、
信託条項の定めが、164条1項の規定を排除しているのではないか
という疑問が残ります。
もっとも、信託条項は、委託者、受託者、受益者の3者が
合意すれば変更が可能ですから、
実際の取引において、委託者兼受益者と受託者で合意すれば
なんでもOKと考えることもできるかもしれません。
それでも、厳密には、前提として信託条項の変更登記が必要でしょう・・・
関東や関西などの大都市圏では、
オフィスビルなどの信託の登記も多いと思います。
そのような登記にめったにお目にかからない
地方都市の司法書士である私の考えは、
もしかしたら的外れではと思いながらも、
2回に渡り信託の登記について考えたことをお話ししました。