賃貸アパート・マンションの大家、
つまり所有者が変わった場合、
賃借人はそのまま住み続けることができるか
ということについて考えてみます。

借家権の対抗

住み続けることができるかどうかは、
新しい所有者に対して、
自分は住み続ける権利があるんだと言える、
つまり借家権を主張(対抗)できるかどうかで決まります。

これについは、借地借家法に規定があります。

(建物賃貸借の対抗力等)
第31条  建物の賃貸借は、その登記がなくても、建物の引渡しがあったときは、その後その建物について物権を取得した者に対し、その効力を生ずる。

借家人は、建物の引渡しを受ければ、
その後に物権を取得した者に借家権を主張できます。
住んでいれば当然、引渡しを受けたことになります。
早く自分の権利を主張(対抗)できる要件を
備えた者が優先する、そういったイメージです。

アパート・マンションが売買された場合

そうすると、借りているアパート・マンションが売買され、
所有者が変わったとしても、
先に引渡しを受けている賃借人は
新しい所有者に自分の借家権を主張できる、
つまり、住み続けることができます。

自分の借家権とは、借りて住み続ける権利のみならず、
家賃や敷金など、賃貸借契約の内容全部を含みます。
新しい所有者が当然に家賃を値上げできる
ということはありません。

もっとも、経済事情の変動や近隣と比較して
不相当となったなどの理由で値上げの請求ができるのは
所有者が変わっても変わらなくても同じです。
(ブログ「家主が家賃を上げると言ってきました。」参照)

アパート・マンションが競売された場合

では、アパート・マンションが競売されて
所有者が変わった場合も同じでしょうか。
考え方は同じです。
しかし、競売の場合は、住んでいる人の借家権より
先に対抗できる要件を備えている権利、
つまり優先する権利があることが多いと思います。
その権利とは抵当権などの担保権です。

アパートやマンションを建てた、
または買ったことで所有者になった人が、
その資金を銀行などから借りたことで、
担保としてアパートやマンションに
抵当権が設定されることは多いと思います。

抵当権も「物権」であり、登記することで
第三者に対抗できる要件を備えます。
そして、その後、アパートを借りた人の借家権は
抵当権に遅れる権利となってしまいます。

もっとも、所有者が銀行に返済していれば、
抵当権者である銀行が、
「自分の方が優先しますから出て行ってください。」
なんてことは言えません。
しかし、返済が滞ると、銀行は裁判所に競売の申し立てができます。

競売でアパート・マンションの所有者となった人は、
抵当権に遅れる権利は引き継ぎません。
つまり、抵当権が設定された後に借家人となった人は、
競売で新しく所有者となった人にも自分の借家権を主張できない、
つまり、「出ていけ!」と言われたら、
出ていかないといけないのです!

(6か月の猶予はあります。)

一方、抵当権が設定される前から住んでいる借家人は、
自分の賃借権を主張(対抗)できますので、
競売の後もそのまま住み続けることができます。

実際は、賃貸アパート・マンションを競売で買う人は、
やはり賃貸目的のことが多いでしょうから、
家賃を払ってくれれば、そのまま住んでいいですよと
なることが多いとは思います。

角田・本多司法書士合同事務所