従業員が給料を差押えられたとき~債権差押えの第三債務者
差押えについては、昨年の4月から5月にかけて
このブログで何度かとりあげました。
今日は、差押える側でもなく、差押えられる側でもなく、
しかし、差押えの関係者となる
給与差し押さえの場合でいえば雇い主のお話です。
1 債権差押え
例えば
①従業員が雇い主から給料を支払ってもらう権利(給与債権)、
②預金を銀行から払い出してもらう権利、
③貸したお金を返してもらう権利、
こういった権利を債権といいます。
なので、これらのものを差押えると「債権差押え」となります。
差押えるのは債権であり、
①給料支払い前に雇い主が持っているお金、
②銀行の金庫にあるお金、
③お金を借りた人が持っているお金を差押えるのではりません。
これらの債権差押えの債務者は
①なら従業員、②なら預金している人、③ならお金を貸した人
ですので、①雇い主、②銀行、③お金を借りた人の財産は
差押えることができませんが、差押えの関係者と言えます。
(「第三債務者」といいます。)
2 第三債務者(雇い主)はどうすればいいか
従業員の給料が差押えられたとき
まず、雇い主のところに裁判所から差押え命令が届きます。
第三債務者である雇い主はどうすればいいのでしょうか。
これについては、民事執行法に規定があり、
第三債務者に対し債務者への弁済が禁止されます。(145条)
つまり、雇い主は従業員に給料を支払ってはならないことになります。
もっとも、給料の場合、差押えられるのは原則として4分の1までで
残りの4分の3は支払っていいことになります。
(この計算には例外もあります。152条)
もし、差押えられた給料を全部支払ったらどうなるでしょう。
裁判所からの差押命令が従業員(債務者)に送達されて
1週間が経過すると、差押えた人(債権者)は
雇い主(第三債務者)に対して
「給料の4分の1を直接自分に支払ってくれ」と言えます。
(債権者の取立て 155条)
そのとき雇い主は「給料全部を従業員に支払ったので、
あなたに支払いはできない」とは言えないのです。
裁判所から禁止されたにもかかわらず支払ったのですから
その責任は雇い主にあり、
雇い主は差押えた人(債権者)にも支払う
つまり、二重払いをしなければならなくなるのです。
2 差押えが重なった場合
1者だけでなく、2者以上の債権者が給料を差押えることで
給料差押えが重なった(競合)した場合は
どちらにどれだけ支払えばいいのか迷いそうです。
しかし差押えが重なった場合、債権者に直接支払うのではなく、
法務局に供託しなければなりません。(156条2項)
後は、裁判所が配当ということで債権者に分配します。
差押えが続く限り、毎月給料の支払いのときに、
4分の1を法務局に供託しなければなりません。
また、差押えが重ならない場合でも、
差押えから1週間たって債権者から「私に直接払え」と言われて
はたしてこの人に支払っていいのかと不安になるかもしれません。
差押えが重なっていない場合でも
法務局に供託することはできます。(156条1項)
支払い(配当)は裁判所がしますので安心です。
なお、いずれの場合も供託した時は、
裁判所にそのことを届けなければなりません。(156条3項)
以上のことは、
家賃を差押えられたときの賃借人、
請負代金を差押えられたときの発注業者などでも
同じことが言えます。
対応を誤ると二重払いの危険があります。
また、供託手続きは司法書士が代理して行える業務ですので、
迷われたときは是非ご相談ください。