成年後見と家族信託に共通する考え方
※ このページでは、判断能力が低下して成年後見人の支援が必要な
成年被後見人、または、信託で財産を託する委託者を「本人」と呼びます。
ブログ「家族信託の動画「②認知症対策」の解説」でも触れましたが、
成年後見制度は本人の権利と財産を「守る」制度であり、
それがために、「財産を凍結される」(実際は凍結しません)
「窮屈だ」と感じる人が多いのも事実ですが、「守る」ことに徹するのは、
本人の判断能力が十分でない以上、当然のことだと思います。
それに対して家族信託は、柔軟な設計が可能で、
財産も凍結されないことがメリットだと対比されることが多いです。
成年後見と家族信託は正反対のもののように言われ、
確かにそういう側面もあるかもしれません。
しかし、両者の根底にある考え方は同じだと思っています。
成年後見制度の「自己決定権の尊重」
まず大前提として、成年後見制度は本人のための制度であり
成年後見人や親族を利するための制度ではないのは当然です。
そして、成年後見制度の重要な基本理念に「自己決定権の尊重」があり、
民法858条にも本人の「意思を尊重」と規定されています。
「判断能力が低下した人が自己決定?」と思う人もいるかもしれませんが、
重い障害や疾患があっても、それでもなお本人には能力や意思は残っており、
その能力を活用して本人が自己決定した意思は尊重されるべきという理念です。
本人保護との調和が求められる場面もありますが、
どこで暮らしたい、こんな医療が受けたいといった本人の決定を
成年後見人は最大限、尊重してその職務を行わなければなりません。
成年後見制度はもっぱら本人のための制度であり
本人の意思決定は尊重されなければならない・・・
家族信託と「自己決定権」
※ ここからは私見が多く含まれます。
信託は誰のためのものかというと、「受益者」のためのものであり
受託者がその立場で、信託財産から利益を受けることが
禁止されている(信託法8条)ことからもわかるように
受託者を利するためのものではありません。
そして、家族信託は委託者=受益者でスタートすることが多いと思います。
契約による信託は、委託者と受託者間の契約で成立しますが、
ここで最大限、尊重されるべきは後に受益者となる委託者本人の意思だと思います。
成年後見制度において、判断能力の低下した本人、しかし、自己決定した意思は尊重されるべき、
ならば、家族信託において、判断能力の十分な委託者本人の意思が尊重されるのは当然です。
そういう意味で、成年後見と家族信託の根底にある考えは同じと考えます。
信託契約の内容によっては、委託者がないがしろにされ、
受託者や他の家族ばかりに都合がよく利益を得られるような
しくみになることもあり得ます。
委託者の意思を尊重しない、そして受益者のためにならない信託は
信託というしくみが存在する目的に反したものだと思います。
もっとも、成年後見との大きな違いとして、
例えば委託者の自宅を対象財産とした信託で、委託者が
「場所が良くないから、〇百万円でも売れるときに売ってしまいなさい」と、
成年後見であれば裁判所が許可することが難しい低額での売却を可能な契約内容にする・・・
受託者が財産の管理処分をしやすいように、残された家族がスムースに財産を承継できるようにと、
委託者本人以外の者にも有益な内容を含めるといった柔軟な設計が、信託では可能です。
これは、信託は契約時に、委託者本人に十分な判断能力があることが前提であり
委託者が自由な意思決定のもとで行うからこそ可能となることです。
家族信託は成年後見と比べて、柔軟な財産の管理処分が可能ですが、
両者とも、財産を管理してもらう「本人」のためのものであり
「本人」の自己決定を尊重するという根底にある考えは同じだと思っています。