信託財産である不動産の売買について1
今回のお話は、信託といっても家族信託ではなく、
信託されているオフィスビルなど大型の物件を
売買する場合のお話で、専門家向けの内容です。
1 信託財産である不動産の売買の形態
信託財産である不動産について
最終的に買主がその不動産の所有権を取得する売買は
主に次の3つの形態が考えられます。
なお、信託条項に信託が終了すると信託財産は
受益者に帰属する旨の定めがあるものとします。
① 信託の目的に従って受託者が直接売却
不動産の処分を目的とする信託において、
目的に従いその不動産を売却すれば、
その不動産は信託財産ではなくなり、
買主はその不動産の所有権を取得することになります。
② 信託終了→受益者が売却
信託を終了させると、信託財産である不動産は受益者に帰属します。
(信託条項に定めがある場合)
受益者が不動産の所有者兼売主となり、
買主に対し売却します。
③ 受益権の売買→信託終了で所有権を取得
まず、受益権を受益者と買主の間で売買し、
買主が受益者となったところで信託を終了させれば
信託財産は受益者となった買主に帰属します。
①の形態は、収益物件の管理を目的とする信託が多いこと、
また、受託者である信託銀行などが
売主として瑕疵担保責任にを負うことになることなどから
あまり多くないと思われます。
また②の形態では、一旦受益者が所有権を取得することで、
受益者に登録免許税、不動産取得税の負担が生じます。
(不動産取得税の課税は受益者が当初委託者でない場合)
というわけで、実際はほとんど③の形態で売買が行われているようです。
2 合意による信託の終了
③の形態では、まず受益者と買主との間で受益権の売買を行い、
合意により信託を終了させて、買主に不動産を帰属させます。
通常はこれらを同日で行ってしまいます。
それでは、受益権の売買が行われた後、
どうやって、信託を終了させるのでしょうか。
信託の終了について、例えば
「受益者が受託者に対し、60日前に書面により通知することにより
いつでも自由に信託契約を解除することができる」
といった定めが信託条項にあることが多いようです。
しかし、③の形態では、買主は受益者となったその日に
信託を終了させるわけですから、
事前に受託者に通知して解除することはできません。
実際の取引では、受託者と受益者が
信託の合意解除の書面を取り交わしているようです。
しかし、合意による信託終了について、信託法は次のように定めています。
(委託者及び受益者の合意等による信託の終了) 第164条 委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。 2 (略) 3 前二項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるとき は、その定めるところによる。 4 (略) |
※ 信託の終了に遡及効がないため、
法では「解除」ではなく「終了」と規定しています。
信託条項の別段の定めで終了できないとなると
合意で終了させることになりますが、合意は
「委託者」と受益者で行うのであり、
「受託者」と受益者で行うのではありません。
では、「委託者」はいったい誰なんでしょう?
つづきは、次回
「信託財産である不動産の売買について2」へ。