判断能力がなければ贈与はできません
1 「贈与」が注目されているようですが・・・
1月22日に、2013年度税制改正をめぐって
自民・公民・民主の3党が富裕層への
所得税・相続税の増税案について合意したと報道されました。
相続税については、基礎控除を現在の
5000万円+(1000万円✕法定相続人の数)から
3000万円+( 600万円✕法手相続人の数)となる見通しです。
民主党政権でも同様の改正の動きはありましたので、
1、2年前から、生前に贈与税の控除枠を利用し、
相続財産を減らして相続対策を、といった内容を
雑誌やインターネットなどでも見かけます。
「贈与」が注目されているようです。
財産をもっている人が高齢でも
判断能力が衰えていなければ
本人の意思で贈与はもちろん可能です。
2 後見人がいても単なる贈与は難しい
しかし、本人の判断能力が衰え、
親族に財産を贈与することが理解できない状態では、
贈与はできません。
贈与はあくまで契約です。
あげる方(贈与者)と、もらう方(受贈者)の意思が合致して
初めて贈与は成立します。
いくら、将来、相続税を負担するであろう親族が望んでも、
贈与する本人に贈与する意思がない
判断能力が衰え贈与する意思を持つことができないのであれば
贈与はできないことになります。
判断能力が衰えているのであれば、
成年後見人を選任したらどうか、と考えるかもしれません。
確かに、成年後見人は判断能力の衰えた本人の法定代理人として
本人の財産を管理・処分する権限を持っています。
しかし、財産の管理・処分はあくまで本人の利益のために行うのであり、
単に他人の利益のために行うのではありません。
親族に対してと言えども、本人の財産を単に贈与する行為は、
成年後見人が選任されてもできないと考えられます。
これを認めると、誰のための成年後見制度かわからなくなります。
成年後見人は裁判所あるいは後見監督人の監督下におかれます。
本人の財産を単に減らすような行為をすると
ひどい場合、後見人を解任される、
あるいは損害賠償請求される恐れすらあります。
「相続税対策」であっても、それは本人のためではなく
あくまで、相続人となる親族のためだからです。
では、本人の判断能力が衰えた後に親族が思い立って
財産を贈与する方法はあるでしょうか。
答えはNOです。少なくとも私には思いあたる方法はありません。
だとするならば、判断能力あるうちに贈与するしかありません。
しかし、今は判断能力があっても、
「将来、長男が家を建てたならば住宅取得資金を贈与したい。」と
考えた場合、長男が家を建てるときに判断能力が衰えていれば、
住宅資金の贈与はできなことになります。
そこで、判断能力のあるうちにできる手当として
任意後見契約を締結し、
契約で任意後見人に贈与する権限を与えておくことが考えられます。
また、家族信託の活用も考えられます。
(ブログ「将来、長男に住宅資金を贈与したいが・・・」をご覧ください。)
いずれも無制限に贈与を行うことは
本人の財産を危うくします。
目的、金額などを明確にする必要があるでしょう。
「父は認知症でわからないけど、
贈与で私に土地の名義変更をして欲しい」と言われても
私たちは、「できません」とお答えするしかありません。
判断能力のあるうちに、何らか手当が必要です。